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福岡高等裁判所 平成5年(ラ)127号 決定

抗告人

國廣直子

代理人弁護士

田中義信

相手方

野村ファイナンス株式会社

代表者代表取締役

齋藤英二

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告理由書」写しに記載のとおりである。

2  抗告理由その一・抗告人が民事執行法一八八条、五五条にいう債務者に該当しないという主張について

本件基本事件記録及び本件記録によれば、次の各事実を認めることができる。

①  本件基本事件において平成三年一一月一二日に差押えられたのは、通称「東京トロイビル」(八階建)、同じく「第二嶋ビル」(五階建)、その他の物件であるが、原決定により抗告人が退去を命じられた占有部分は、「第二嶋ビル」の三階部分である。

②  本件相手方(基本事件差押債権者)は、平成五年一月一二日、所有者・毎日開発興産株式会社(以下「毎日開発興産」という。)に対し、本件建物部分等について、売却前の保全処分(占有移転禁止及び執行官による公示書貼付)を申立てたところ、同月一四日、この旨の決定を得た。

③ そこで、同月二一日、同決定に基づき保全処分の執行をしたところ、本件建物部分は、出入口に「OPENSTAND BOP」との表示がなされ、室内にはビールケースを積みあげた上に板等を置いて簡易な立ち飲み用のテーブルをしつらえてはあったが、飲食店営業のための営業許可証の掲示はなく、現に飲食店として営業され使用されている状況にはなかった。

④  同年三月五日、本件建物部分について占検執行をしたところ、本件建物部分の入口に先の保全処分執行の際に貼付した執行官の公示書はなくなっており、室内に先の執行時には存在しなかった飲食店営業の許可証(事業者・國廣直子、許可期間・平成五年一月二八日から平成九年三月一日まで)が掲示され、内装が施されていたが、その他のテーブル等の諸設備については先の保全処分執行時との間に目立った変化はなく、さほど資本を投下したとはみられない。

⑤  抗告人が本件建物部分を借受けたという「有限会社亜洸商事」という会社は商業登記簿に登載されておらず、その代表者という立野大二郎は広域暴力団山口組系杉組配下の者であって、毎日開発興産から本件基本事件の差押物件である「東京トロイビル」や「第二嶋ビル」の管理を任せられていると明言し、上記の差押物件の各階を毎日開発興産あるいは有限会社亜洸商事の名のもとに第三者に次つぎと賃貸し、あるいは転貸を許容したりしている。そして、毎日開発興産もこのような立野の行為について格別な対応をしないで、なすがままにしている。

⑥  また、前記保全処分命令に引続いて、この命令の対象としなかった建物部分についても平成五年三月三日に同様の売却前の保全処分命令が発令され、同月五日、この旨の執行がされた。ところが、その後も占有移転を禁止された各差押物件の一部の公示書が破棄、隠蔽され、占有状況に異動が生じたりして、これらの事態に立野やその関係者が関与している蓋然性が高い。

⑦  このような事情から、本件差押物件の正確な占有状況が確定されず、執行裁判所も未だ売却条件を決定できないでいる。

以上の認定事実によると、毎日開発興産は、その所有する「東京トロイビル」や「第二嶋ビル」が差押えられた後、これら物件を自ら管理することを放擲し、暴力団関係者の立野大二郎らにこれを委ねてしまっており、同人らはこれによって本件差押物件の各階を第三者に占有させ、二次にわたる占有移転禁止の保全処分にもかかわらず、これを無視するかのような行為に出ているというべきである。

そうすると、毎日開発興産及び立野の上記行為は、いずれも基本事件の円滑な進行を妨害するためのもの、すなわち執行妨害を目的として上記のような行為に出たものと認めるのが相当である。

そして、同じ認定事実によるとき、抗告人が実際に本件建物部分の占有を開始したのは、第一次の保全処分命令執行後のことであり、しかもそれは「有限会社亜洸商事」から本件建物部分を賃借したからであると主張していることが明らかであるところ、「有限会社亜洸商事」の代表者と称する立野大二郎と毎日開発興産との関係に照らし、立野が第一次の保全処分命令が発令されてその執行のあったことを知らないはずはなく、しかも立野は本件差押物件を他に賃貸することを執行妨害の一環としてなしていることや本件建物部分についての諸設備等が簡易であることなどを併せ考えると、本件抗告人も第一次の保全処分命令が発令されて執行ずみであることを知りながら、本件建物部分の占有を開始したものと推認すべきである。

そうすると、以上の事情のもとに本件建物部分を占有している抗告人は、立野を介して毎日開発興産からその占有を許諾されているものとして、毎日開発興産の占有補助者とみなすべきであるから、売却のための保全処分の相手方となりうるものである。

ところで、暴力団関係者が介在してこの者から賃借したという抗告人が本件建物部分を占有しておれば、買受人の出現が困難になることは多言を要せず、このために本件差押物件の価値は著しく減少することとなる。

よって抗告人の前記主張は、採用できない。

3  〈省略〉

4  よって、本件執行抗告は失当であるからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官緒賀恒雄 裁判官近藤敬夫 裁判官木下順太郎)

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